古代から現在に及ぶ「天皇制」論をたどることにより、天皇制とは何かに接近。中世の親鸞・北畠、幕藩体制期の徂徠・昌益・宣長、近代天皇制成立期の秋水・啄木・鴎外など過去の優れた「天皇制」論を検討吟味する。
はしがき
第一章 天皇制始原としての「記紀神話」とその批判
一 明治憲法・日本国憲法における天皇制規定
二 記紀神話における「天皇制始原論」の展開
三 記紀の批判的考察—津田左右吉・石母田正・水林彪の継承的発展
第二章 中世の宗教と天皇制
一 民衆的宗教者としての親鸞論
(一)親鸞思想の現代性
(二)親鸞における「信心為本」と「王法為本」
(三)「自力から他力へ」の「三願転入」論の意義
(四)親鸞「自然法爾」・「廻向」論の意義と限定の問題
二 「易姓革命論」としての北畠親房『神皇正統記』
(一)『神皇正統記』の意図と射程
(二)「神国」・「正統」の理念
(三)「有徳者」の政治理念
(四)『孟子』「放伐」論の継承
第三章 近世幕藩体制期の天皇制論
一 朱子学的儒学の止揚者としての荻生徂徠論
(一)丸山眞男の荻生徂徠論の意義
(二)徂徠学の「内部構造論」の問題
(三)徂徠の「現実的統治論」の問題
(四)徂徠学の「変革」論と「反近代」論をめぐって
二 封建社会の根本的変革者としての安藤昌益論
(一)安藤昌益の研究史
(二)「自然」・「互生」・「直耕」の哲学
(三)「法世」社会とそのイデオロギー批判
(四)「過渡期社会」形成論をめぐって
三 「神国日本」主義者としての本居宣長論
(一)宣長思想の問題性
(二)歌・物語論における「物のあはれ」論
(三)「神道」的政治論
(四)現代宣長論の諸相と問題性
第四章 「尊王攘夷論」から「自由民権論」への天皇制論
一 「尊王攘夷論」とその落着としての吉田松陰論
(一)吉田松陰の三つの評伝
(二)「尊王攘夷論」の形成
(三)『孟子』解釈における「国体論」の確立
(四)松陰における「革命」の問題
二 自由民権運動の闘士としての植木枝盛論
(一)尊王攘夷論と明治維新論の概観
(二)枝盛の民主主義の原理論
(三)枝盛の憲法論とその意義
(四)枝盛の天皇制論と共和制論の行方
第五章 近代天皇制の成立と三つの「対抗」——秋水・啄木・鴎外の思想
一 近代絶対主義天皇制の成立
二 「大逆事件」と幸徳秋水・石川啄木の天皇制思想
(一)秋水の社会主義論
(二)啄木と「大逆事件」
三 森鴎外の「かのやうに」の哲学
(一)「かのやうに」哲学の実践
(二)社会主義の「遠望」と史伝への「韜晦」
あとがき 人名索引
著者紹介:吉田傑俊(よしだ まさとし)
1940年生まれ。1965年、京都大学文学部哲学科卒業。法政大学名誉教授。専攻は哲学、思想史。主な著書に『知識人の近代日本』大月書店、1993年。『マルクス思想の現代的可能性』大月書店、1997年。『国家と市民社会の哲学』青木書店、2000年。『市民社会論』大月書店、2005年。『福沢諭吉と中江兆民』(近代日本思想論T)大月書店、2008年。『「京都学派」の哲学』(近代日本思想論U)大月書店、2011年。『丸山眞男と戰後思想』(近代日本思想論V)大月書店、2013年。『象徴天皇制考』本の泉社、2018年など。
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